※この前のお話にあたる、2011年バレンタインデーショートストーリーはこちらから |
『つばさの丘の姫王』 2011年ホワイトデーショートストーリー by 六花梨花 |
ウィングフィールドの雑貨屋に出入りしている業者が、 「3月14日は、ホワイトデーといって、バレンタインに贈り物をしてくれた女性に、 男性は3倍返しの贈り物をする義務があるのですよ」 と、セールスしていたという…… |
「んふふ」 |
ヴィヴィアンはご機嫌な様子で、広間の椅子に腰掛けている。 |
「3倍返しだそうだぞ」 |
「そうですね」 |
「何が貰えるかな。 こちらから強請ってみてもいいかな」 |
「だけど、どうして3倍なのでしょうね」 |
「単に、あれこれ売りつけたいだけだろう」 |
「ヴィヴィアン、ヴィヴィアンー! 今日は意趣返しで3倍の日なんだぜ? これ、あげるー」 |
「なんだ、その卒業式のお礼参りみたいな 変貌っぷりのホワイトデーは。 で、何をくれるんだ?」 |
八角は、ヴィヴィアンの膝の上に、気絶しているコマドリを、ぽとりと置いた。 |
「私が捕獲しました」 |
八角の声は無意味に漢前だ。 |
「すごい、ドヤ顔だな」 |
「はいはい。 逃がしますよ」 |
「やだーっ! どうしてーーっ!!」 |
「うちで、ペットは飼えません」 |
「捕まえるの、すっげぇ時間かかったのにー!! 逃がしちゃだめーっ!」 |
「知りませんよ、そんなこと。 もう飛んで行ってしまいましたよ」 |
「うわーんっ!」 |
「あっ、あのっ! 失礼しますっ!」 |
「どうした? クリストファー」 |
「これ……ホワイトデーのプレゼントですっ! 受け取ってください!」 |
クリストファーは顔を真っ赤にして、プレゼント包装された小さく平たい箱を、びしっと両手で差し出す。 |
「ありがとう。 開けていいか?」 |
「はいっ、是非っ!」 |
箱の中には、薔薇の刺繍が施されたハンカチが入っていた。 主になる色が緑の為、どこかヴィヴィアンをイメージさせる。 |
「これは…中の国のスワント刺繍ハンカチか」 |
「はい、そうですっ。 さすがっ! 良くご存じですね」 |
「というか、これだと高かったのではないか?」 |
「ふ…ふふ…業者さんがヴィヴィアン様にプレゼントするのなら こちらの方が…と、どんどん高値のものを勧めてくださるんですが、 確かに良いものだったので、つい……」 |
「さすが商家の次男坊。目は肥えているのだな」 |
「この場合、いいカモですよね」 |
「クリストファー、背中にネギが見えるぜ……」 |
「失礼します。ヴィヴィアン様。 私も、これを……」 |
「なんだ、なんだ?」 |
「詩集です。お気に召されるか、わかりませんが……」 |
エドリックがヴィヴィアンに渡した本は、とても美しい装丁が施されている。 |
「装丁の金箔が、華奢で美しいな。 中の詩も美しそうだ」 |
「お気に召していただけて、光栄です」 |
「そこに、気絶させたコマドリぼとーん!」 |
「ぶっ!」 |
「こんなこともあろうかと、 もう一羽、ゲットしておいたんだぜ?」 |
「はいはい。 逃がしますよ」 |
「ちょっとーっ!! そっちの方が羽毛の色が濃くて、 ヴィヴィアンが好きそうなのにーっ!」 |
「というか、本が汚れてしまいましたね。これで拭きますか」 |
「俺のあげたハンカチが、いきなり活用されてるーっ!」 |
「待ちなさい、ペチュニア! そんなに強く拭ったら、本が傷む!」 |
「ハンカチも破れますっ!」 |
「ワザとやっているに決まっているだろう…?」 |
「なんて暗黒微笑!」 |
「そんなに悔しいのなら、 自分もプレゼントを用意しておけば良かったんだ…」 |
「ははは。 本日の主役の私は置いてけぼりな状態だ」 |
「俺がいるじゃないか、ヴィヴィアン」 |
「ああ。お前は何をくれるのだ?」 |
「躰の要所要所に、お礼のキャンディーを貼りつけておきました。 さあ、思うまま俺の衣服を剥ぎ、キャンディーを貪るといい!」 |
「それでやたらビッグニップルになっているのか。 服の皺が歪になっているぞ。 というか、お前は本気で馬鹿だな。はははっ。 絶対、剥いでやらん」 |
「愛する君が喜ぶのなら、俺は喜んで道化になろう…! そして、こんなこともあろうかと、 普通にキャンディーも用意しておいた。 さあ、あーんして、ヴィヴィアン」 |
「はいはい。 捨てますよ」 |
「こらぁぁっ!! 食べ物を粗末にする奴は、もげてしまえっ!!」 |
「というか、悉く邪魔をするのなら、 エドリックの言う通り、 お前も用意しておけば良かったのだ」 |
「じゃあ、僕のだけ受け取っておけばいいんです。 はい、ホワイトチョコとムースのケーキですよ」 |
「ん、これは美味い! だが、ハンカチも詩集も、キャンディーも欲しいから、 全部、私のものだ」 |
「…ったく…強欲ですね」 |
「皆、そんな私が好きなのだから、かまわんだろう?」 |
「ふん。仕方ないですね。 はい、ハンカチと詩集と、キャンディーですよ。 コマドリはいいんですか?」 |
「野生のものは、自由にしている方が良い。 そのうち森でまた見ることが出来るだろう。 で、ダウス。お前は何もくれんのか?」 |
「その前に、儂は何も貰っておらんわっ!!」 |
【おしまい】 |