スペシャルコンテンツ


ショートストーリー


『つばさの丘の姫王』 2011年バレンタインデーショートストーリー by 六花梨花

 ウィングフィールドの雑貨屋に出入りしている業者が
「2月14日は、バレンタインデーといって、意中の男性に女性がチョコをプレゼントする日なのですよ」
と、セールスしていたという……
ヴィヴィアン 「という訳で、チョコを持っていたりする」
ペチュニア 「業者さん、チョコが売れ残っていたんですね。
 そしてそれに、まんまとつきあっている訳ですね」
ヴィヴィアン 「どうせなら、楽しもうと思ってな」
ペチュニア 「お祭り好きですものね、貴女は。
 で、誰に配るんですか?」
ヴィヴィアン 「そうだな……ちょっと様子を見てから、考えるとしよう」
 掌大の白い袋に入ったチョコ片手に館の廊下をうろついていると、手招きするティーズと出くわした。
ティーズ 「ヴィヴィアン、ヴィヴィアン。
 飴をあげよう。
 ほら、お前の好きな苺味だぞ~」
ヴィヴィアン 「うむ、貰ってやろう」
ティーズ 「じゃあ、お返しに」
ヴィヴィアン 「ん?」
ティーズ 「チョコちょーだい☆」
ヴィヴィアン 「断る☆」
ティーズ 「えっ、ちょっ、えーっ!?」
 ヴィヴィアンはティーズから飴を強奪……もとい、貰い、チョコを渡さず、別のところへと向かう。
ダウス 「ちっ」
 酒蔵庫の前に、ダウスがいた。
ヴィヴィアン 「なんだ、また酒を探してるのか」
ダウス 「そうだ。ブランデーの良いのがあると聞いたのだが、
 どこに隠しおった、あの眼鏡……」
ヴィヴィアン 「ブランデーか。チョコに合うな」
ダウス 「その手にしているものはチョコか。
 どうしても貰ってくださいというのなら、
 貰ってやらんこともないぞ?」
ヴィヴィアン 「じゃあ、やらん」
ダウス 「だったら、始めから話をふるなっ!」
 ヴィヴィアンが廊下をてくてく歩いていると、前からエドリックがやってきた。
エドリック 「ヴィヴィアン様…」
ヴィヴィアン 「どうした、エドリック」
エドリック 「…業者から話を聞きました…
 その、チョ――」
ヴィヴィアン 「なんだ、欲しいのか。
 ではやろう。はい、チョロギ
エドリック 「えっ…!?
 チョコではないのですかっ…!?」
ヴィヴィアン 「チョコもあるが、お前にはこちらが似合う。
 遠慮なく受け取るといい」
 ヴィヴィアンはエドリックにチョロギをひとつ、渡した。
エドリック 「あの…出来れば、その…チョコ、も…
 ――あ、あれ、ヴィヴィアン様……?」
 ヴィヴィアンはもう別のところへと移動していた。
クリストファー 「ヴィヴィアン様ーっ!」
 裏庭を歩いていると、クリストファーが駆け寄ってきた。
クリストファー 「これ、さっき釣ってきた魚です!
 焼いて食べませんか!?」
ヴィヴィアン 「うむ、いいな。
 塩はばんばんに効かせてくれ」
クリストファー 「はい、わかりましたっ!
 だけど、その…しょっぱいものを食べると、
 あ、甘いもの…食べたくなりますよ…ね…?」
ヴィヴィアン 「ああ、そうだな」
クリストファー 「だったら、えっと、そのっ、あのっ…
 魚のあとに、ヴィヴィアン様の持っているチョコ、
 俺にも少し…その…わ、分けて……」
ヴィヴィアン 「なんだ。お前もチョコ狙いか」
クリストファー 「ううっ…すみません…
 っていうか、皆さん、そうなんですか…?」
八角 「そこにオレも参戦っ!!
 ヴィヴィアン、ヴィヴィアンー!
 オレの嫁だろー! オレだけに、チョコー!」
クリストファー 「そ、そんなっ…俺だって欲しいのにっ…!」
ティーズ 「そういうことなら、遠慮はしないよ?
 なんなら魔法を使ってでもっ…!」
エドリック 「荒事はどうかと…」
八角 「さらりと参加して、綺麗事ヌカしてんじゃねぇよ!
 このメガネ!」
ヴィヴィアン 「まあまあ、喧嘩はいかん。
 喧嘩するのなら、これすべて、私が食べてしまうとするか」
 ヴィヴィアンは袋を開けた。
クリストファー 「ええーっ!」
ティーズ 「だったら、キスして奪うまで!」
八角 「オレも口の周りベロベロしまくってやるっ!」
クリストファー 「あ、うっ、う、あっ、どーすればいいんだーっ!」
エドリック 「ヴィヴィアン様、
 一欠片でも残していただければ、と…」
ヴィヴィアン 「ん…なんだ、これは」
ペチュニア 「一口サイズのキスチョコですね」
ヴィヴィアン 「ひとつしか入っていないと思っていた」
ペチュニア 「中身がどうなっているか知らずに、
 誰か一人にだけあげようと思っていたのですか」
ヴィヴィアン 「ああ、そうだ」
 ヴィヴィアンは中身の数を数えた。チョコは6つ入っている。
ヴィヴィアン 「ふむ。全員、一列に並べ」
ティーズ 「ん? なんだ?」
クリストファー 「さあ……」
エドリック 「ヴィヴィアン様、一体……」
八角 「うわーん! あむっ!?」
 大泣きしている八角の口へ、ヴィヴィアンはチョコを投げ入れた。
八角 「うまーい! あまーい!」
ヴィヴィアン 「そら、全員、口を開けろ」
 ティーズの口に、チョコを放り込む。
ティーズ 「あーん、む…美味いっ」
 続いて、エドリック。
エドリック 「うっ……その…失礼いたします…んっ…んんん…」
 その次に、クリストファーの大きな口へ。
クリストファー 「う、は、恥ずかしいっ…でも、いただきますっ!
 ……あっ…まーい!」
ヴィヴィアン 「ほら、ペチュニアも。あーんしろ」
ペチュニア 「そこは鼻先ですよ、ヴィヴィアン様。
 普通に食べさせてください。
 ん……うん。まあまあですね」
ヴィヴィアン 「よし、これで全員に行き渡ったな」
 ヴィヴィアンは満足そうに仁王立ちする。
エドリック (予想通りですが…)
クリストファー (ヴィヴィアン様の好きな人…わからなかった…)
ティーズ 「ははは。ヴィヴィアンは男を手玉に取るのが上手だなぁ」
八角 「さすが、オレの嫁!」
ダウス 「人数分あったのだったら、あまるだろう。
 つまみにする。寄越せ」
ヴィヴィアン 「残念だったな。私が食った」
 ダウスは忌々しげに舌打ちをすると、酒を片手に、無限図書館へと引きこもった。
ヴィヴィアン 「ふふふ。来月が楽しみだ」
ペチュニア 「まだ何か、業者に吹き込まれているのですか」
【おしまい?】

※この後のお話、2011年ホワイトデーショートストーリーはこちらから

体験版



twitter用アイコン



リンクバナー