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ショートストーリー


『つばさの丘の姫王』 2011年お正月ショートストーリー by 六花梨花

 ウィングフィールドにも新年がやってきた。
 0時きっかりの町をあげての年明けのお祝いとは別に、ヴィヴィアンの館では、料理長ティーズの手による元旦のごちそうが振る舞われている。
ティーズ 「1の重は、和風で取り揃えました。2の重は洋風。3の重は中の国料理となっております」
クリストファー 「これが、おせちっ…! 俺、初めて見ました!」
ヴィヴィアン 「今年もきばったな」
ティーズ 「はい、勿論…っていうか、艶やかなお祝い料理を作るのって、燃えるね! こう、凝りに凝って、うっはーみたいな!」
ペチュニア 「ドMが」
ティーズ 「褒め言葉、ありがとう」
八角 「じゃあ、いっただっきまーす!」
ヴィヴィアン 「そうじゃないだろう。明けましておめでとう、だろう」
八角 「あ、そうだった。明けましておめでとうございます!」
クリストファー 「おめでとうございます!」
エドリック 「おめでとうございます」
ペチュニア 「おめでとうございます。今年もよろしくしてさしあげますよ」
ヴィヴィアン 「うむ、おめでとう」
ティーズ 「はい、おめでとー。
 さあさあ、どんどん食ってくれよー。
 まだまだ、あるからなー」
クリストファー 「それじゃあ、いっただっきまーす!
 俺、ローストビーフ!」
八角 「この世界の肉はすべからくオレ様のものとすべしー!」
ヴィヴィアン 「待て待て、肉は平等に」
ペチュニア 「そう言いながら、全部取ろうとしないっ」
 全員が肉に集中している間に、エドリックは静かにフォアグラのテリーヌ、オマール海老、魚のエスカベッシュなどを取る。
クリストファー 「この出汁巻き卵って、美味しい! 甘い! 濃厚! 初めて食べましたーっ」
ティーズ 「隠し味も色々と凝ったからねー。さあ、どんどん食べなさい。その間に俺はこれをっと……」
 ティーズはバーベキューセットと炭を用意し始めた。
ダウス 「何をしておる。酒」
ティーズ 「酒はあっちの手際よく自分の食べたいものをゲットしている眼鏡美人に言って下さい、お爺ちゃん。俺は今、忙しいのっ」
ダウス 「ちっ。眼鏡、酒ーー!」
ペチュニア 「正月くらい忙しくないよう作るのが、おせちではないのですか」
ティーズ 「ごちそうを振る舞う機会を生かさずしてコックとは言えないじゃないか。はははんはんはーん」
 ティーズは炭をおこし、金網の上に白く丸いものを並べだした。
クリストファー 「ヴィヴィアン様、あれは…?」
ヴィヴィアン 「餅だ。お前が時々食べている、おにぎりの親戚のようなものだ」
クリストファー 「おおーっ…! そんなのがあるんだー」
 ティーズはころころと器用に餅を焼いていく。
クリストファー 「あ…香ばしくって、良い匂い!」
 焼き上がった餅を、お椀の中に入れていく。
ティーズ 「まずは、お雑煮。鶏肉と豆腐を浮かべた、すまし汁でどうぞ。ネギは好みで」
ヴィヴィアン 「ネギ、多めにしてくれ」
ペチュニア 「ネギ抜きで」
クリストファー 「よくわからないけど、なんでも多めでー!」
ティーズ 「ははは、待て待て。餅は逃げないぞー。雑煮の次は、色々とトッピングにこったのを食べて貰おう。スタンダードに醤油と砂糖。きなこに、小豆、黒・蜜☆。醤油とバターと海苔ってのも合うんだぜー。それと、バジルソースに、ボロネーゼソース。カレーもいいぞー」
 ティーズはたんたんたんっと机にソースを並べていく。
ダウス 「ふん」
 ダウスは焼き上がっている餅をひとつ取ろうとした。
ティーズ 「だめーーーー!!!」
 ――ぺちん。
 ティーズはダウスの手を叩いて止めた。
ダウス 「何をするんじゃーーー!!」
ティーズ 「喉に詰まって死んじゃうでしょっ!」
ダウス 「そんな危険なものを食わせるなー!」
ヴィヴィアン 「では、ちょろぎを食え。ピンク色でかわいいぞ」
ダウス 「腹にたまらんわ!」
ペチュニア 「死ねばいいのに」
ダウス 「なんか言ったか、クソガキ」
ペチュニア 「いいえ、なーんにも、クソ爺」
ダウス 「ふんっっ」
 ダウスは和風の重を小脇に抱え、日本酒の一升瓶を掴むと、姿を消した。
クリストファー 「ああっ、ドロボー!」
ヴィヴィアン 「無限図書館で、一人酒か」
ティーズ 「こんなこともあろうかと、予備のお重を用意しておきました。
 ま、余り物を詰めたとも言うけど」
エドリック 「それでは、私は……」
クリストファー 「数の子と海老、黒豆いただきますっ!」
ヴィヴィアン 「栗の甘露煮と百合根は、私のものだ」
ペチュニア 「蓮根は譲りませんよ」
八角 「ごまめ、にんじん、高野豆腐、お肉ーー!!」
 エドリックが取る前に、和風お重の中は空になってしまった。
エドリック 「…………」
 エドリックの眉間に薄く皺が入る。
ヴィヴィアン 「しかたないな。エドリック、あーんしろ。はい、ちょろぎ
エドリック 「そっ…そんな、恐れ多い…ですが、何故、ちょろぎ…」
ヴィヴィアン ちょろぎは可愛いからだ。はい、あーん」
八角 「ずるい! ヴィヴィアン、オレもー!」
クリストファー 「そのっ…エドリックさんが食べられないのでしたら、俺が代わりに!」
ペチュニア 「ふん」
 ペチュニアはヴィヴィアンが箸でつまんでいたちょろぎを、ぱくっと食べた。
エドリック 「あ……」
八角 「ああんっ」
クリストファー 「あうっ…」
ペチュニア 「ふん」
 ペチュニアの口からは、しょりしょりと良い音がしている。
ヴィヴィアン 「ははは。ペチュニアは可愛いなぁ」
ティーズ 「はいはい、揉めない、揉めない。揉んでいいのはおっぱいだけ。またまだあるぞー。食え、食えー」
 ティーズによるお正月ごちそうの宴は3日続いた。
 それが終わったあと、ベルトの穴の位置や、コルセットの締め具合を調節する者、朝から夕日の巨人が現れるまでランニングをする白狼の姿を、ウィングフィールドで見ることが出来たという……
ティーズ 「めでたし、めでたし?」
ヴィヴィアン 「はっはは。あまりめでたくないな」

【おしまい】

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